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救世主は元カレ Page2

last update 公開日: 2026-02-01 08:30:43

 ――〈駒田こまだ印刷〉は社長ご夫妻と十人くらいの社員さん達が切り盛りしている、いわゆる町の印刷屋さんだ。

「藤木さーん、お客さんにお茶お出しして」

「はい」

「それ終わったら、事務所のコピー機の用紙補充しておいてね」

「分かりました」

「あと、伝票の整理もね」 

「……はい」

 事務のパートで入ったはずのあたしの仕事は、雑用がほとんどだった。とはいえ伝票を整理したり、経費の計算をしたりという事務作業もあるので、商社勤めの経験は多少は役に立つ。

 あたしはそういう仕事を週四でこなし、夕方早めに帰宅して、夕食の支度や家事の合間にせっせと小説の投稿をしていた。

 でも、ほとんどルーティンワークのような毎日には刺激がなく、正樹さんは相変わらずあたしに無関心。そのくせ、「あれはダメ」、「それは認めない」とやることなすこといちいち口うるさい。

 そんな毎日に、あたしは早くもウンザリしていた。

 ――そんなある日の退勤後。

 あたしの勤務時間は朝十時から夕方四時までだ。「働きたい」と言った時に正樹さんが出した条件が、「勤め先から帰ってちゃんと家事をこなすこと」だったからである。

「お疲れさまでした。お先に失礼します」 

 小さなロッカールームで作業着を脱ぎ、私服姿で社長に挨拶をして、あたしは会社を出た。

 〈駒田印刷〉での仕事はけっこう楽しい。社長を始めとする社員さん達からはよくして頂いているし、雑用だって苦にはならない。

 でも……、なんだかモヤモヤする。「こんなはずじゃなかったのに」と、結婚が決まってからいつも思っている。

 自分を愛してもくれない男との望まない結婚、義母との確執、充実しているとはいえない毎日の生活……。

 何か一つでも刺激さえあれば、こんなモヤモヤから解放されるのに。……と思いながら、主婦の習性で夕食のメニューを考えつつ歩いていると――。

「――里桜……だよな? 久しぶり」

「……え?」

 耳に心地ここちのいい、聞き覚えのある男性の声がして、あたしは振り返った。

 この声、もしかして……。

たい……! 久しぶりだね」

 結婚してからいいことがほとんどなかったあたしは、彼の姿を認めて微笑ほほえんだ。

 彼は大沢おおさわ大智。大学時代にあたしと付き合っていた元カレだ。

 でも別れた原因は嫌いになったからではなく、お互いに就活で忙しくなって、何となくすれ違っているうちに自然消滅しただけだった。

 あたしはまだ、大智のことが好きなのだ。――ただ、一応は既婚者の身だから、その気持ちを表に出すことはできないけれど……。

「――っていうか、よくあたしだって分かったね」

 今のあたしは、彼と付き合っていた頃みたいにキラキラしていない。服装だって地味だし、何となく所帯疲れしているのに。

「まあ、確かに見た目は変わったけど。第六感で分かったんだよ。『あっ、里桜だ!』って」 

「へえ……」

「確かに、髪伸びて雰囲気ふんいき変わったなあとは思ったけど」 

「そりゃ、卒業して三年もたてば髪も伸びるよ」

 あたしはそう言って、ヘアゴムでひっつめていた長い髪をほどいた。大学時代は肩まであるかないかくらいの長さだったと思う。

「そうだよな……。あ、そうだ。今時間ある?」

「うん、ちょっとなら……」

 早く帰って家事をしないと、という一種の呪縛じゅばくからついついそう答えてしまう。でも、本心では彼との再会をもっと長く楽しみたい。

「んじゃ、そこのカフェまで付き合って。話したいこともあるしさ」

「……うん」

 あたしは大智に付き合って、近くのおしゃれなカフェでお茶することにした。

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  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   エピローグ Page3

    「……そうだ。この子の名前、考えてやらねえとな」「名前ならもう決めてあるよ。自由の〝由〟に〝羽〟で〝由羽〟」「由羽?」「うん。この子にはあたし以上に、自分の人生を自由に羽ばたいていってほしいから、その願いを込めたの」 間違ってもあたしみたいに、好きになった人の手を離さないように。周りの環境に振り回されないように、自由な人生を歩んでいってほしい。 子供の名前は、親がいちばん最初に贈るプレゼントだ。あたしがこの子に贈りたいのはその願いだけ。「……うん、いい名前じゃん。里桜とおんなじくらい、いい名前」 よかった、大智も気に入ってくれたみたいだ。あたしの名前を決めた時の父も、きっとこんな気持ちだったんだろうな。「でしょ? 由羽、ママですよー。これからよろしくね」「由羽、パパだぞー。生まれてきてくれてありがとな。――里桜、頑張って産んでくれてありがとう」「ううん。大智こそ、あたしに由羽を授けてくれて、あたしを幸せにしてくれてありがと。愛してるよ」「うん、オレも里桜のこと愛してる」 これからどんなことも三人で……ううん、まだ増えるかもしれないけれど、遠回りした分うんと幸せを積み重ねていこう。 だってあたしはもう、籠の中の鳥なんかじゃない。自由に羽ばたいていける。大好きな人の|

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  • 幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~   元カレとの新しい日常 Page2

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    last update最終更新日 : 2026-03-18
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